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ぜにがたへいじとりものひかえ

銭形平次捕物控(八)お珊文身調べ

野村 胡堂

Read 銭形平次捕物控(八)お珊文身調べ (ぜにがたへいじとりものひかえ) by 野村 胡堂 (のむらこどう) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.

N2 · advanced · modern kanji and kana · 143,455 characters · 290 screens

Aozora Bunko

一〇

「薄暗くなって顔の判らない時分を見計ってやるんだよ、いいか、八」

一〇

「勘次、不都合なことがあるものだな」

「何です、井崎の旦那」

壁の穴の向うとこっちで、井崎八郎と白狗の勘次は話を始めました。

「今しがたあれから手紙が来たよ、――三千両の金は手に入ったが、今急に箱を開くわけにいかぬ、いずれゆるゆる取出すつもりだが、俺達二人が江戸に居ては、露顕の因になる、路用をやるから、今晩中に江戸を退散するように――と言うのだ」

「ヘエ――、判ったような判らねえ話だ、が、退散するもしねえも、路用次第じゃありませんか、千両も持って来ましたかい」

「とんでもない」

「それじゃ百両」

「百両ありゃ、ずいぶん一年や半年は江戸を遠退いてもいいな」

「まさか十両や、二十両じゃないでしょう」

「それが十両にも程遠いから驚くだろう」

「五両ですかい」

「たった一両だよ」

「えッ」

「驚いたろう、勘次」

「さア勘弁ならねえ。人面白くもねえ、大夕立の中で立廻りまでさせやがって、三千両の手間にたった一両とは何だ」

「俺のせいではないぞ」

「だから、怒鳴り込んでやりましょう、さア」

「刀の手前、このまま引っ込むわけにはいかぬな」