Read classic Japanese books with furigana
ja-reading.com
Read classic Japanese books online with furigana. Filter by JLPT level, tap a word for the meaning, and translate a sentence.
ひだのかいだん
飛騨の怪談 新編 綺堂怪奇名作選
岡本 綺堂
Read 飛騨の怪談 新編 綺堂怪奇名作選 (ひだのかいだん) by 岡本 綺堂 (おかもときどう) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 130,271 characters · 263 screens
」
お葉は其の洋盃を取って、一息にと飲み干した。重太郎は眼を丸くして眺めていたが、やがて懐中から椿の折枝を把出して見せた。いかに大切にしていても、過日から水も与らずに我肌に着けていたのであるから、蕾は已に落ち尽した、葉も已に枯れ尽して、枝も已に折れていた。恋しい人の形見と思えばこそ、花も葉もない斯んな枯枝を、彼は幾多の不便を忍んで今まで身に添えていたのであろう。
「お前さんも可愛い人ねえ。」
お葉の眼には涙が見えたが、衝と起って再び座敷へ復った。床の花瓶には彼の椿が生けてあって、手入の好い所為でもあろう、紅い花は已に二輪ほど大きく綻びていた。彼女は其枝を持って出た。
「これ、御覧。お前さんに貰った花は、妾の方でも大事にして、此の通りに花を咲かしてあるよ。」
重太郎は手に取って、紅い花をつくづく眺めた。彼は自分の魂魄が此花に宿って、お葉の温かき情を受けているようにも思った。
「どうだい、よく咲いたろう。」
「むむ。」と、重太郎も笑ましげに答えて、猶も飽かずに其花を眺めていたが、「ねえ、此花を一つ呉れないか。」
「ああ、欲ければ上げますよ。丁度二輪咲いてるから、お前さんと妾とで一個ずつ分けようじゃアないか。