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ひだのかいだん
飛騨の怪談 新編 綺堂怪奇名作選
岡本 綺堂
Read 飛騨の怪談 新編 綺堂怪奇名作選 (ひだのかいだん) by 岡本 綺堂 (おかもときどう) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 130,271 characters · 263 screens
下のかたより二十五六歳の旅人、旅やつれは見えながらも人柄は賤しからず、洋服を着て登山帽をかぶり、足にはゲートルを着け、リュックサックを背負い、木の枝を杖にして出づ。)
旅人 (重兵衛に声をかける。)済みませんが、少し休ませて貰えませんか。
重兵衛 はい、はい。どうぞお這入り下さい。
旅人 這入っても構いませんか。
重兵衛 かまいませんよ。(正面の戸をあける。)さあ、さあ……。
旅人 (内に入る。)とんだお邪魔をします。
重兵衛 焚火も丁度燃え付いた所だ。さあ、おあたりなさい。
旅人 ありがとうございます。(リュックサックをおろして、炉の前に腰をかける。)まだ十月のなかばだと云うのに、山の中は随分寒うござんすね。
重兵衛 (笑う。)山の中という程でもないが、それでも夜になると、里よりは滅切り冷えて来るようですよ。あなたは夜道をかけて、今頃どうしてこんな所へお出でなすったのだね。
旅人 箱根を越して甲州へ出る積りです。
重兵衛 はあ、甲州へ……。
旅人 行かれるでしょうね。
重兵衛 わたしも行ったことは無いが、行かれる筈ですよ。それじゃあ今夜は箱根泊りですね。
旅人 さあ、箱根に泊るか、夜通し歩くか、まだはっきりとは決めていないんですが……。