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ひだのかいだん
飛騨の怪談 新編 綺堂怪奇名作選
岡本 綺堂
Read 飛騨の怪談 新編 綺堂怪奇名作選 (ひだのかいだん) by 岡本 綺堂 (おかもときどう) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 130,271 characters · 263 screens
この場合に理屈を云っても仕方がない、嚇しても仕方がない、こんな狂気染みた女は宥めて還すより他はあるまいと思った。
「お葉さん。何しろ、この通り人立がしては、お前も外聞が悪かろうし、私の家でも迷惑するから、まあ堪忍して呉れ。此方に不都合があるなら、何んなにも謝るから……。」
お葉は冷笑って答えなかった。
「ね、後生だから堪忍して与って呉れ。必然お前の意の済むようにするから……。」
迂濶口を滑らせると、黙っていたお葉は屹と顧った。
「妾の意の済むようにするんですね。」
否とも云われぬ、市郎は首肯いた。
「じゃア、二度と此の女をここの家へ入れないようにして下さい。若し此の女がここの門を潜った所を見ると、妾は何日でも押掛けて来て、頭の毛を一本一本引ッこ抜いて与るから、然う思ってお在なさい。」
無理は最初から知れているが、一時逃れに市郎は承知した。
「可、可。それだから最う堪忍して与って呉れ。頼むから……。」
「必然ですね。」
「むむ、必然だ。間違はない。」
市郎は心にもない誓を立てた。これで漸く意が済んだのであろう、お葉は勝利の笑を洩して、掴んだ手を初めて弛めようとする時、お杉婆が衝と寄って来て、例の凄愴い顔をぬッと突き出した。