Japanische Klassiker mit Furigana
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だいぼさつとうげ
大菩薩峠4
中里 介山
Lesen Sie 大菩薩峠4 (だいぼさつとうげ) von 中里 介山 (なかざとかいざん) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 264.133 Zeichen · 524 Bildschirme
「たあいもない」
竜之助はその花を手に取ろうともしません。お銀様は、ただ一人でその花をいじくりながら無心にながめていました。
さてお銀様は、机の上をながめたけれども、そこに、有野村の家の居間にあるような、一輪差しの花活も何もありません。
「お銀」
竜之助はお銀様の名を呼びました。それは己が妻の名を呼ぶような呼び方であります。
「はい」
お銀様はこう呼ばれてこう答えることを喜んでいました。自分から願うてそのように呼ばれて、このように答えることを望んでいるらしい。
けれども竜之助は呼び放しで、あとを何の用とも言いませんでした。ただ名を呼んでみて、呼んでしまっては、もうそのことを忘れてしまっているようでしたが、実はそうではありません。
「あなた」
お銀様は椿の花を面に当てて、その二つの葉の間から竜之助の面をながめました。
「この花をどうしましょう、わたしの一番好きな椿の花」
お銀様はクルクルと、椿の花を指先で操りました。
竜之助は返事をしません。けれどもお銀様はそれで満足しました。
「生けておきたいけれども、何もございませんもの」
お銀様は、わざとらしくその花を持ち扱って、机の上や室の隅などを見廻しました。