Japanisch lesen

Japanische Klassiker mit Furigana

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わすれのこりのき

忘れ残りの記

吉川 英治

Lesen Sie 忘れ残りの記 (わすれのこりのき) von 吉川 英治 (よしかわえいじ) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.

N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 193.050 Zeichen · 383 Bildschirme

Aozora Bunko

――ま、それらは、ともかく、肉親の縁にも薄く、孤独と不幸をすでに幼少の生い立ちから持っていたような義兄政広は、こんな風に、また結婚の一歩を、複雑に踏み出していた。そしてその結婚が、幸福なものだったかどうか、頗る疑問な点である。

なぜなら、そんな大騒ぎを周囲にさせて嫁いで来たのに、嫂のお八重は、それからわずか半年ほど後に、元町の実家へ帰ってしまった。それも義兄と相談ずくでもなく、義兄が銀行へ出ている留守に、買物に行くといって出たまま戻って来なかったのである。もちろん、義兄が迎えに行ったり、父と山田との間にも、再々仲人を介してごたごたの繰返しが始まったが、話の落着きは、山田の代人が、嫁入り道具衣裳持ち物の悉皆を受け取りに来たのが最後であった。

「わかったか、貴さまは、山田夫婦から、お坊っちゃん育ちのいい鴨と見られていたのだ。色男ぶって、いい気になるからこんな目にもあうのだ」

父が義兄にずけずけ云ったことばは余りに痛烈だったから、ぼくら小さい者の耳にも沁みた。二階から逃げるように降りて来た義兄は、女中部屋の片隅でいつまでも泣いていた。その二、三日は、瀬戸物の音までが何か物淋しい家の空気と、お腹の大きな嫂の美しい姿が消えた物足らなさに、小さいぼく達まで何となくひそまっていた。