Japanische Klassiker mit Furigana
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ずいひつ しんへいけ
随筆 新平家
吉川 英治
Lesen Sie 随筆 新平家 (ずいひつ しんへいけ) von 吉川 英治 (よしかわえいじ) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 213.575 Zeichen · 424 Bildschirme
山下運転手君は、平地を見るのとおなじである。ただし車体は上下動を烈しくし、ことによれば、自解分裂を起こさないとも限らないような軋みをのべつギイギイ噛み鳴らして走る。
「はい、だいぶ登りました。もう六、七百米は」と同君がいう。
朽ち落ちんばかりな橋にかかる。「あ、止めて」と、杉本画伯身を起こす。美しい滝を右がわの深淵の奥にみつけたのだ。不動ノ滝というのだそうな。水の明暗と、浅もみじ、濃もみじ、木洩れ陽の映光など、ことばに絶える。健さんは手早くスケッチを始め、ほかの者も、車の外へこぼれ出す。ちょうど、この辺でみな降りて一ぷくしたかったところ。
あちこち、逍遥したり、また小用したり……。
その小用をやりながら、いわゆる帝釈山脈の峰頭をながめ渡す。その中に、男体山が見えるかどうか知らないが、ぼくはふと万葉か何かにあった好きな古歌をおもい出していた。――ぬば玉の黒髪山の山菅に小雨降り敷く、しくしくおもへば。――旅人の真菅の笠や朽ちぬらん、くろ髪山のさみだれの頃。
「おうい、出発ですぞう」と、高山君の声が下の方でする。あわてて、さみだれ放心を収め、車の方へ駆けもどる。