Japanische Klassiker mit Furigana
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ひかりはかげを
光は影を
岸田 国士
Lesen Sie 光は影を (ひかりはかげを) von 岸田 国士 (きしだくにお) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 138.262 Zeichen · 276 Bildschirme
深い山ひだをぬつて、佐久の平野を南へ貫いている千曲川の流れが、青空の光を吸つて、霧のなかに消えている。
汽笛がかすかに響く。玩具のような上り列車が、いま小諸の駅へすべり込んだ。小萩の心は、いらだたしく東京へ飛び、急にはどこと方角もつかぬ都の街々をさ迷つた。彼女は、今夜にでも、あの汽車で東京へ行つてしまおうかと思つた。
と、ちようどその時、療養所の方から、松林の中を、このへんで見なれぬ恰好の男が一人、ふらふらこつちへ歩いて来るのがみえ、近づくにつれて、それが、まさしく京野等志だということがわかると、小萩は、カッと胸の熱くなるような思いで、伸びあがるように、われを忘れて、手を高く振つてみせた。
「どうなすつたの……」
と、彼女は、まだ表情もかえぬ相手に叫びかけた。が、その声は、たゞ、あたりの静けさを破つて、遠いこだまとなるばかりであつた。
「どうして、わざわざ出てらしつたの?」
彼女は、こんどは、もどかしそうに、走り寄つた。
「出て来る方が早いと思つたからです。もう、そんなにいゝんですか?」
うしろに黙つて立つている少女にも気をくばりながら、京野等志は、見ちがえるほど生きいきとした小萩の顔を珍しそうに打ち眺めた。