Japanische Klassiker mit Furigana
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しん・へいけものがたり
新・平家物語
吉川 英治
Lesen Sie 新・平家物語 (しん・へいけものがたり) von 吉川 英治 (よしかわえいじ) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 123.012 Zeichen · 245 Bildschirme
――凝然、盛遠は、またたきもしない。
なぜか、涙も出ない。
ああ恋人――かの君――とは、この物か。
ただまろい土塊にしか見えなかった物は、あたりの白むにつれ、次第に、すだれのような髪の毛の下に、骨ばかりになった皮膚の異様な変りかたをあらわした。一片の干貝のような耳、青蝋を彫りくぼませたような瞼のあたり、そして、紙のカビみたいな斑点までが、浮いてきた。それらの、形象は、どうしても、個々に見えて、もうふたたび、一つの顔として見ることは、不可能だった。
『……ああ! 大日。……大日如来』
そのとき、盛遠の眸は、土くれに近い亡骸から、突然、はるかな空へ、ひかれていた。――いつか、かれの真正面に、まっ紅な太陽が、さし昇っていた。洛中の屋根も、東山連峰も、塔の尖も、なべて一面の雲の海であり、見たものは、巨大な光焔の車だけであった。
ふと、かれは、思い出した。
弘仁のむかし、それは仏教にまだ、さんらんたる生命のあった世のころではあったが、嵯峨天皇の皇后、橘ノ嘉智子は、人間の中に二度とこのような麗人は生まれないだろうとすらいわれたほどな美貌でおわしたのに、人身の常、やがて崩ぜられた。