Classiques japonais avec furigana
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こぞうのゆめ
潤一郎ラビリンスV――少年の王国
谷崎 潤一郎
Lisez 潤一郎ラビリンスV――少年の王国 (こぞうのゆめ) de 谷崎 潤一郎 (たにざきじゅんいちろう) en japonais avec furigana. JLPT N2. Touchez un mot pour le sens.
N2 · avancé · kanji et kana modernes · 71 989 caractères · 144 écrans
真面目なる慾望の発する所には、必ず対象が生れなければならない。己はどうしても、そう考えずに居られなかった。
一体、己のように実世間からかけ離れた空想に生きて居る者が、物質に対する旺盛な慾望を感ずるのは、いかにも道理に合わないようである。空想家たる以上は、物質の世界よりも心霊の世界に、より多くの交渉を持つべきであるが、どう云うものか己は生れつき、官能的刺戟に対して鋭敏な感受性を授かって居る。食物の味わいのうまいまずいや、着物の色合のよしあしや、甚だしきは女の髪の結振の恰好不恰好に至るまで、子供の癖に非常に精密な賞翫力を持って居る。而も其れが、趣味とか流行とかの問題に関して、何等の教養をも受けた筈のない、貧乏人の子供なのだから一層特筆すべきである。それ故己は、普通一般の子供に比べると、非常に生意気で、或る意味に於いては可なり世間智が発達して居た。
つまり己の性格の中には、互に相背馳した二つの要素が備わって居たのだ。一面に於いて空想家であった己は、他の一面に於いて常識家であった事は争われない。趣味の問題を全く別にして考えても、己の常識家であった證拠はいくらもある。