Classiques japonais avec furigana
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こぞうのゆめ
潤一郎ラビリンスV――少年の王国
谷崎 潤一郎
Lisez 潤一郎ラビリンスV――少年の王国 (こぞうのゆめ) de 谷崎 潤一郎 (たにざきじゅんいちろう) en japonais avec furigana. JLPT N2. Touchez un mot pour le sens.
N2 · avancé · kanji et kana modernes · 71 989 caractères · 144 écrans
(二)の十三
内のお嬢さんのは、あれは人間の美しさだ。メリー嬢のは神か悪魔の美しさだ。己は何だか、メリー嬢の傍に居ないでは、生きて居られないような気がする。事に依ったら、彼の女にかけ合って、黒ん坊と同じ弟子の仲間へ入れて貰おうか知らん。
(二)の十三
五月廿日 雨
メリー嬢の魔術もとうとう今日でおしまいである。新聞で見ると、今日かぎり世界館の興行を終って、これから神戸を巡業して、上海の方へ出かけるのだそうである。己は何だか居ても立っても溜らないような心地がする。せめて別れを惜しむ為めに、今日は何とか都合して浅草へ行きたいのだが、生憎表へ出る用事がない。おまけに朝から雨がビショビショ降って居る。何と云う悲しい、恨めしい日であろう。
今夜か明日のうちには、メリー嬢はもう東京に居なくなるのだ。そうして、あと一週間か二週間の後には、此の日本から遠く上海へ去ってしまうのだ。上海から何処へ行くか、恐らく彼の女と黒ん坊とは、世界の果てまでも怪しい魔術を提げて流浪して行く事であろう。己はもう、生きて再び恋いしい彼の女と黒ん坊の姿を見る事は出来ないだろう。
世界館の舞台の上で、彼の女の犠牲となって暮らした過去の四五日は、恐らく己の一生のうちでの、最も貴い、最も楽しい時間であったろう。