Classiques japonais avec furigana
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こぞうのゆめ
潤一郎ラビリンスV――少年の王国
谷崎 潤一郎
Lisez 潤一郎ラビリンスV――少年の王国 (こぞうのゆめ) de 谷崎 潤一郎 (たにざきじゅんいちろう) en japonais avec furigana. JLPT N2. Touchez un mot pour le sens.
N2 · avancé · kanji et kana modernes · 71 989 caractères · 144 écrans
(一)の九
「あれは一体、何と云う音楽です。」
己が斯う尋ねると、
「あれかい、あれはタンホイゼルのシンフォニーだよ。」
と、お嬢さんが仰しゃった。
(一)の九
己にはタンホイゼルが何だか、シンフォニーが何だか、そんな事は分らなかったが、兎に角、己の敬愛するお嬢さんが己と一緒にあの音楽に聞き惚れたと云う事実が、此の上もなく嬉しかった。少くとも己に音楽の耳を開けてくれたのは、その時のタンホイゼルとお嬢さんの言葉とであった。
その後毎晩のように、宝商会のラッパが鳴り出すのを楽しみにして、己はしんみりとレコードの音色を味わった。声の美しさとか、節の巧さとか云うような、細かい点を賞翫する事は出来ないまでも、己は何か知ら、一種不可解な感銘に魅せられて、恍惚とせずには居られなかった。恍惚? どうも度び度び「恍惚」と云う字を使うようだが、実際音楽から受ける快感は、「恍惚」の二字を用うるより外に、適当な形容詞がない。その快感をもう少し詳しく解剖して説明するとしたら、まあ何と云えばいゝのだろう。たとえて見ると、其れは恰も、人間が子供の時分から胸に抱いて居て、どうしても口に云い表す事の出来なかった情景を、極めて流暢に、極めて精緻に、語り聴かされて居るような気持ちである。