Classiques japonais avec furigana
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ひのとびら
火の扉
岸田 国士
Lisez 火の扉 (ひのとびら) de 岸田 国士 (きしだくにお) en japonais avec furigana. JLPT N2. Touchez un mot pour le sens.
N2 · avancé · kanji et kana modernes · 129 467 caractères · 257 écrans
そこへ、いきなり、彼女一人に来いという理由は……?
翌朝一番の電車でたつことにきめはしたが、康子はその夜まんじりともせず、夫の性格と思想とが選ばせるあらゆる行動を、とりとめもなく頭に描いた。そして、なによりも鮮やかに彼女の眼に残つている夫の長い手紙の一節は、あらゆる想像をかきたてるに十分であつた。
――然し、自分にはまだ残された公の任務があり、将来を見届けなければならぬ部下もいる。もうしばらく、一個人としての進退は絶対に許されないことを、お前はもちろん、母上にも承知していてもらいたい。自分がどういう姿でお前たちのそばに帰れるか。こゝ二三カ月乃至半年の間に、それは自分にも明らかになるだろう。……
この文句をなんども/\よみかえした康子は、それまでもう眼いつぱいにためていた涙をはらはらとひざの上に落した。が、夫のこの見事な思慮は、決して単純な絶望につながるものではない、と信じさせるゆとりがあつた。
彼女には、かすかにではあるが、運命の新しい道がひとすじ眼の前にひらけはじめていたのである。
ところが、今度の電報は、不安と希望とを五分々々に突きつけるようなものであつた。