Classiques japonais avec furigana
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ひのとびら
火の扉
岸田 国士
Lisez 火の扉 (ひのとびら) de 岸田 国士 (きしだくにお) en japonais avec furigana. JLPT N2. Touchez un mot pour le sens.
N2 · avancé · kanji et kana modernes · 129 467 caractères · 257 écrans
十四
彼の方ではそういう機会を待ちかまえているらしいけれども、それだけに、彼女としては、それを避けるようにするほかはなかつた。なにかゞ未解決のまゝ残されていることはたしかであつた。それにしても、彼女の待ち望むものは、彼の月並な求愛の言葉やしぐさではなかつた。彼女は自分の思慮分別に重きをおこうとはしていない。ある誘惑なら誘惑でもよい。それが、彼女の魂を根こそぎゆすぶるようなものであつてほしい。この相手の、どこかにそれがあるようでいて、さて、いざとなるとまだ/\自分の心の片すみに冷たいかたまりのようなものが残つているのである。
早昼をすますことにした。
それで、いよ/\中園は、
「近いうち、もう一度出て来ます。口で言えないことは手紙に書きます。ぼくは、このまゝお別れするつもりはありません」
と、言い、庭先へまわしたくつをはきながら、
「おい、ヒデ子、早くしなさい。モトム君にサヨナラは?」
すると、それまで、モトムのそばで顔を伏せていたヒデ子は、肩をしやくつて泣きだした。
「おい、おい、おかしいぞ、そんなの。また遊びにこよう、また……」
が、少女は泣きやまず、モトムは、それが自分のせいででもあるように、手の甲をあごに当てゝ面目なげに母親の顔をみあげていた。