Classiques japonais avec furigana
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ひのとびら
火の扉
岸田 国士
Lisez 火の扉 (ひのとびら) de 岸田 国士 (きしだくにお) en japonais avec furigana. JLPT N2. Touchez un mot pour le sens.
N2 · avancé · kanji et kana modernes · 129 467 caractères · 257 écrans
七
七
市ノ瀬牧人と北原ミユキとは、ほとんど直接に口をきこうとしなかつた。どつちもそれを避けているふうではないが、ふたりの間に交わされる話題は、つねに、康子を通じて、康子もいつしよにということになる。それはきわめて自然なようにも思われたが、康子にしてみれば、あきらかに、自分の存在がこの場合、不必要であり、邪魔なものに考えられた。しかし、それは、いまどうしようもないのである。
「あたし、午後の汽車で帰ろうかしら? これから何時のに間に合うでしよう?」
「今からだと、もう東京へ遅く着く汽車しかありませんわ。お疲れになるわ。ねえ、市ノ瀬さん」
「そう、辰野を四時いくらつていうのには、まだ間に合うけれど、東京へ十一時だで……」
「いゝわ。それでいゝわ。早く帰らないと困るの、あたし……。市ノ瀬さんは、一日や二日、ぶらぶらしてらしつていゝのね」
「ぶら/\はできんですが……」
「とにかく、そうしてちようだい。さ、行きましよう」
ボートの中へは、いつの間にか、北原ミユキのはからいで、ざる一杯のシジミが東京へのおみやげといつて用意されていた。
が、いよ/\、康子と市ノ瀬牧人を乗せらボートが岸をはなれようとするとき、康子はそこにしよんぼり立つている北原ミユキに、声をかけた。