Classiques japonais avec furigana
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ひのとびら
火の扉
岸田 国士
Lisez 火の扉 (ひのとびら) de 岸田 国士 (きしだくにお) en japonais avec furigana. JLPT N2. Touchez un mot pour le sens.
N2 · avancé · kanji et kana modernes · 129 467 caractères · 257 écrans
五
それはそうと、北原ミユキは、まだそれほど古い附合いとはいえぬこの男に、どうしていまこんな親しい口のきゝかたをするのか、自分ながらふに落ちないのである。たゞ、相手がわりにすらすらと調子をあわせてくれるので、やつぱりそれでよかつたと思つている。つまりは、だれでもいい、すこしは手ごたえのある話相手が、ふとほしくなつていたのである。井出夫人が東京へ行つたまゝ、もうかれこれ一週間たつのにまだ帰つて来ないことも、彼女の現在にとつては、言いようのないさびしさであつた。
「こんなこと、まだ言うのは早いと思うけれど、だれかに言つてみたくてたまらんの、わたし」
と、彼女は、市ノ瀬牧人がくつのひもを結びなおしている横から、だしぬけに言つた――
「あのな、ほら、あのひとな、どうも戦犯にひつかゝつとるらしいの」
五
「戦犯に? どうしてわかつたの?」
と、市ノ瀬牧人は、顔をあげた。
「うゝん、はつきりしたことはわからんのだけど、あのひとの家へ同じ部隊で戦友だつたつていう人がたずねて来てな、多分そうだつて話したらしいの」
「そんなら新聞に出そうなもんだがな」
「名前がでしよう。でも、まだ公表しないものだつてあるわ、きつと……」