Classiques japonais avec furigana
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みやもとむさし
宮本武蔵
吉川 英治
Lisez 宮本武蔵 (みやもとむさし) de 吉川 英治 (よしかわえいじ) en japonais avec furigana. JLPT N2. Touchez un mot pour le sens.
N2 · avancé · kanji et kana modernes · 185 809 caractères · 369 écrans
逞しい豪傑が憤怒するよりも、この婆が根の剥けている前歯を吹き飛ばしそうにして叫ぶ声のほうが、武蔵は、怖い気持がした。
その恐い気持のうちには、少年時分の先入主が多分にあった。又八も青洟を垂らし、武蔵もまだ八ツか九ツ頃の悪戯ざかりの当時、村の桑畑や本位田家の台所などで、この老婆に、
(童ッ)と一声呶鳴られると臍がもんどり打ったように、縮み上がって逃げたものである。
その雷声が、武蔵の頭のしんに今もどこかに沁みこんでいるらしいのである。もとより子供の頃から、好かない婆、つむじ曲りな婆、また、関ヶ原から村へ帰った後にうけた仕打の憎さは、いちいち骨髄に徹しているが、由来この婆には、勝てないものという幼い時からの癖がついているので、時経てば、あの時の無念さも、さほどではなくなっていた。
それに反して、お杉は、幼少の時から見ている悪戯小僧のたけぞうがどうしても頭から離れない。しらくも頭で洟垂れの畸形児みたいに手脚ばかりヒョロ長かった嬰児の時から知っている武蔵である。――自分が老いて、彼が成長した事実は認めても、昔から餓鬼あつかいに見ていた観念は毫も取れない。
その餓鬼に、こうされると思うと、お杉は、郷土の者に対する大義名分ばかりでなく、感情だけでも、このまま土に化ることはできなかった。