Classiques japonais avec furigana
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こぞうのゆめ
潤一郎ラビリンスV――少年の王国
谷崎 潤一郎
Lisez 潤一郎ラビリンスV――少年の王国 (こぞうのゆめ) de 谷崎 潤一郎 (たにざきじゅんいちろう) en japonais avec furigana. JLPT N2. Touchez un mot pour le sens.
N2 · avancé · kanji et kana modernes · 71 989 caractères · 144 écrans
山の麓から四方へひろがって、青空の雲につゞいて居るあの廣い/\大地、―――あの大地こそは、経文のうちにまざ/\と描かれて居る五濁の世界であると云う。二人は四明が嶽の頂きから、互に自分の故郷だと聞かされている方角を瞰おろしては、たわいのない夢のような空想を浮べずには居られなかった。或る時千手丸は近江の国を眺めやって、うす紫の霞の底に輝いて居る鳰海を指しながら、
「ねえ瑠璃光丸、あすこが浮世だと云うけれども、そなたは彼処をどんな土地だと思うて居る。」
と、兄分らしいませた口調で、もう一人の稚児に云った。
「浮世は塵埃にまみれた厭な所だと聞いて居るが、此処から見ると、あの湖の水の面は、鏡のように澄んで居る。そなたの眼にはそう見えないだろうか。」
瑠璃光丸は、そんな愚かな質問をして、年上の友に笑われはせぬかと危ぶむように、恐る/\云った。
「だが、あの美しい水の底には恐ろしい龍神が棲んで居るし、湖の縁にある三上山と云うところには、その龍よりももっと大きい蜈蚣が棲んで居る事を、そなたは多分知らないのだろう。山の上から眺めると浮世はきれいに見えるけれども、降りて行ったら其れこそ油断のならぬ土地だと上人が仰っしゃったのは、きっとほんとうに違いない。