Classiques japonais avec furigana
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ひのとびら
火の扉
岸田 国士
Lisez 火の扉 (ひのとびら) de 岸田 国士 (きしだくにお) en japonais avec furigana. JLPT N2. Touchez un mot pour le sens.
N2 · avancé · kanji et kana modernes · 129 467 caractères · 257 écrans
あ、いた、ほんとじやないか」
北原ミユキがどこかをつねつたとみえて、飛びのくような形で、言う。
「まあ、それは/\……。じや、うちともお近づきになつていゝわねえ」
康子はそういつて、北原ミユキの方へ笑いかけ、茶を入れる支度をする。この若い女教師の許嫁が、ビルマ戦線からなんでも一度とか便りをよこしたきり、いまもつて消息がないということはかねて聞いていた。顔さえみればそのことは頭に浮ぶのだけれども、そうずけ/\と訊ねるのもと思い、康子の方からはあまりその話にふれずにいたのである。それにしても、北原ミユキの康子に対する態度は、まつたくほかのだれとも違つていた。子供の先生という関係は別にして、もつと個人的な親しみをみせはじめていた。それというのも、終戦この方、いわゆる職業軍人の家族に対する周囲の風当りは、目立つて強くなつていた。康子自身は、むろんそれを人一倍身にしみて感じていたけれども、そのために肩身の狭い思いをするのは卑屈だと思つていた。北原ミユキは、そういう彼女の気持を実によくのみこんで、それとなく、かばいだてをしたり、時によると、軍服をはがれた夫一徳の立場に不思議な同情と理解とを示したりするのである。