Classici giapponesi con furigana
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えどさんごくし
江戸三国志
吉川 英治
Leggi 江戸三国志 (えどさんごくし) di 吉川 英治 (よしかわえいじ) in giapponese con furigana. JLPT N2. Tocca una parola per il significato.
N2 · avanzato · kanji e kana moderni · 577.271 caratteri · 1141 schermate
「今晩は。――今晩は」
勢いよく、其家の表を叩き初めました。
訪れてみますと、折角彼が不眠で告げに来た甲斐もなく、
「どちら様ですか。もう寝んでおりますが」
と、よそよそしい女の返辞が奥の方でするばかりで、釘勘の家の戸は、彼へ冷淡に閉まっているままです。
でも、次郎はなお其家をたたく手を止めないで、
「こんばんは。今晩は。――ここを開けて下さい。私は根岸の方からやってまいりました高麗村の次郎というもんですが……」
「今晩は生憎と、部屋の衆はみな留守で一人もおりませんから、また明日来て下さいな」
「いえ、部屋の者は留守でも、釘勘親方にさえ会って、たった一ことお話すれば用は済むんですから、どうぞ、ちょっとここを開けておじさんに取次いでくれませんか」
そう言っている間に、奥の方でする女の声は、一向立って来そうもなく灯影も射してまいりません。
「お気の毒様だけれど、その親方もこの四、五日の間、ちッとも家へ顔を見せないんだから、また出直して来て貰うよりしかたがないね」
「困ったなあ」
次郎はそう呟いて、また奥へも聞こえるような声で、
「困ったなあ、そいつは」と繰り返しながら、いつまでもそこに嗟嘆を洩らしていました。