Classici giapponesi con furigana
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ごくちゅうへのてがみ
獄中への手紙
宮本 百合子
Leggi 獄中への手紙 (ごくちゅうへのてがみ) di 宮本 百合子 (みやもとゆりこ) in giapponese con furigana. JLPT N2. Tocca una parola per il significato.
N2 · avanzato · kanji e kana moderni · 230.599 caratteri · 458 schermate
国府津の長椅子式で。あのときの青竹色の表紙の本は何でしたっけ、細田民樹か何かだったかしら。一日よんでいらしたわね。それでちっとも退屈ではなかったことね。ああいう退屈でない時間の流れかた。ゆったりとした水が流れるのを知らず流れているようなああいう含蓄ゆたかな時の流れの味。私たちの気質は一日をせかせかと小さく区切って小まめにあれやったり、これやったりして、夕方になるとやれ一日すんだという型ではないらしいことね。夜からひるへいつか夜となり、という調子らしいわね。私たちはなかなか詩人なのですもの。
詩人と云えば、この頃あなたの読んでいらっしゃるのはどういう詩でしょうか。
この間うちのような秋日和には、ゆたかな海の潮のみちひのうたや、暖くて芳ばしい野草のうたやがなつかしくて、裏表紙の深紅の本を折々くりひろげました。おぼえていらっしゃるかしら、あのなかに、「ああせめて私の眼がたんのうするまで」という短章があるのよ。一本の実に美しい樹の梢があるのよ。幹の雄々しい線と云い、梢の見事なしげり工合と云い、それは空にひひるばかり。一人の旅人はその樹の美にうたれ心をひかれて、その幹によって飽かず眺め、遂に手をのばしてその樹を撫でるのですが、その山地は霧が多くてね、もっともっと見たいのに忽ち霧が湧き出て梢をかくしてしまうのです