Classici giapponesi con furigana
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たまものまえ
玉藻の前
岡本 綺堂
Leggi 玉藻の前 (たまものまえ) di 岡本 綺堂 (おかもときどう) in giapponese con furigana. JLPT N2. Tocca una parola per il significato.
N2 · avanzato · kanji e kana moderni · 130.703 caratteri · 261 schermate
物静かな山科郷の陶器師の家には、月日の移り変わりというものがないようにも思われた。それにひきかえて、久安四年から仁平二年――この足かけ五年のあいだに、自分の身の上はどう変わったか。千枝太郎は振り返って考えた。
叔父の職を見習って、烏帽子折りになるはずの彼は、藻に振り放されたのが動機となって、日本に隠れのない陰陽博士の弟子となった。そうして、師匠にも可愛がられた。自分が未来の出世も眼に見えるようであった。その幸いも長くは続かないで、この三月に偶然かの玉藻にめぐり逢ってから、今まで消えかかっていた思いの火が再び胸に燃えあがった。師匠にも諭され、自分も戒めて、魔性の疑いある彼女と努めて遠ざかろうと試みたが、その因縁は不思議にからみ付いて、幾たびか彼女にめぐり逢う機会が偶然に作られた。そのたびごとに怪しく掻き乱される自分の心を危うくも取り留めようとしながら、所詮はひと足ずつに彼女の方へ引き寄せられて行くらしいのを、神のような師匠の眼に観破られて、彼はついに慈悲の勘当を言い渡された。今さら詫びても肯き入れる師匠でないのを知っているので、彼はすごすごとそこを立ち退いて昔の山科の家に戻った。