Classici giapponesi con furigana
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たまものまえ
玉藻の前
岡本 綺堂
Leggi 玉藻の前 (たまものまえ) di 岡本 綺堂 (おかもときどう) in giapponese con furigana. JLPT N2. Tocca una parola per il significato.
N2 · avanzato · kanji e kana moderni · 130.703 caratteri · 261 schermate
三
に車の轅は向きをかえた。かれを追う牛飼いもないのに、牛はおとなしく向き直って、元来た京の方へのろのろと歩んで行くのであった。千枝太郎はおどろいた。驚くと共に彼の疑いはいよいよ募って、なんの分別もなしに車のあとを追った。歩みの遅い牛の尻へ彼はすぐに追い付いて、右の轅に取り付きながら前すだれを無遠慮にさっと引きめくると、薄い月は車のなかへ夢のように流れ込んで、床にすわっている女の顔を微かに照らした。
その顔をひと目見て千枝太郎は立ちすくんだ。車のぬしは三浦の孫娘の衣笠であった。衣笠が今頃ただ一人でどうしてこんな所へ来たのか。千枝太郎は自分の眼を疑うように、呆れてしばらく眺めていると、すだれはおのずからさらりと落ちて、車は再びゆるぎ出した。
「わらわに恋するなど及ばぬことじゃ。思い切れ。思い切らぬと命がないぞ」
すだれのなかでは朗かな声で言った。
三
なんの祈願か、なんの呪詛か。殊に外出を封じられている衣笠が、この夜ふけに一人の供をも連れないで何処へ行くつもりであったろう。千枝太郎にはとてもその想像が付かなかった。さらに不思議なのは、その車が彼の姿をみると俄に向きを変えてしまったことである。