Lettura giapponese

Classici giapponesi con furigana

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えどさんごくし

江戸三国志

吉川 英治

Leggi 江戸三国志 (えどさんごくし) di 吉川 英治 (よしかわえいじ) in giapponese con furigana. JLPT N2. Tocca una parola per il significato.

N2 · avanzato · kanji e kana moderni · 577.271 caratteri · 1141 schermate

Aozora Bunko

「まあ、その話は、打ちきるとしよう。おれの恋はほかにある。あの空屋敷の昼蚊帳は、おれにも解せない夢だった」

「……そ、そしてあなたは一体、だれなんです?」

「おれか。――おれは日本左衛門というものだ」

「…………」

おりんの顔色は紙のように白くなって、そのまま柱の下へよろめきそうになりますのを、日本左衛門の手がやんわりと支えて、

「驚いたのか」

と、耳へ口をつけました。

「なにも驚くことはねえ、ただ少し頼みたいことがあって、さっきからここに屈んでいたのだ。――奥廊下へ渡る錠口のカギを貸してくれ」

「…………」

「いやか」

……ぱたッと、何か物音がそこで聞こえたかと思うと、それっきりです。

それから暫くして、ズズズズと廊下を向うへ摺ッてゆくような音がしたのは、どうも日本左衛門の跫音でもないようでした。

何しろ古い様式の建物で、中の屋、北の屋、東の屋、と棟もべつに、中庭から橋廊下をへだてているので、これ以上なことがあっても、滅多に客間や詰侍の部屋までは分るはずがない。

まして、千蛾老人の部屋は、一番奥まった北の屋の一室で、そこへゆくには、ひとつの橋廊下と、二ヵ所の厳重な杉戸がある。