Lettura giapponese

Classici giapponesi con furigana

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たまものまえ

玉藻の前

岡本 綺堂

Leggi 玉藻の前 (たまものまえ) di 岡本 綺堂 (おかもときどう) in giapponese con furigana. JLPT N2. Tocca una parola per il significato.

N2 · avanzato · kanji e kana moderni · 130.703 caratteri · 261 schermate

Aozora Bunko

四月も末に近い白昼の日は、このたとえ難い混雑の上を一面に照らして、男の額にも女の眉にも汗がにじんだ。

「ほう、えらい群集じゃ」と、一人の若者が半ば開いた扇をかざしながらつぶやくと、その声に気がついたように一人の翁が肩を捻じ向けた。

「おお、千枝までないか。久しいな」

それは山科郷の陶器師の翁であった。

声をかけられて千枝太郎もなつかしそうに摺り寄った。

「翁よ。ほんに久しいな」

よい相手を見付けたというように、翁も摺り寄ってささやいた。

「お身、藻を見やったか」

「藻……。藻がきょうもここへ見えたか」

「おお、半刻ほども前に、見事な御所車に乗って来た。おれは車を降りるところを遠目に覗いたが、今は玉藻と名が変わっているとやら……。名も変われば人も変わって、顔も姿も光りかがやくばかりの美しさ、おれは天人か乙姫さまかと思うたよ。偉い出世じゃ。いくら昔馴染みでも、もうおれたちはそばへも寄り付かれまい。ははははは」と、翁はむかしとちっとも変わらない、人の善さそうな笑顔をみせた。

藻――それは千枝太郎に取って、堪え難いように懐かしい、しかも身ぶるいするほどに怖ろしい名であった。