Classici giapponesi con furigana
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たまものまえ
玉藻の前
岡本 綺堂
Leggi 玉藻の前 (たまものまえ) di 岡本 綺堂 (おかもときどう) in giapponese con furigana. JLPT N2. Tocca una parola per il significato.
N2 · avanzato · kanji e kana moderni · 130.703 caratteri · 261 schermate
今夜の題は「月不宿」というのであった。この難題には当代の歌詠みと知られた堀川や安芸や小大進の才女たちも、うつむいた白い頸を見せて、当座の思案に打ち傾いていた。一座はしわぶきの声もなくて、鳴き弱ったこおろぎが真垣の裾に悲しくむせんでいるのが微かに聞こえるばかりであった。その沈黙は玉藻が溜息の声に破られた。
「おもえば思うほど、これは難題じゃ」
「ほんにそうでござりまする」と、堀川もその声に応じて、案じ悩んだ顔をあげた。「関白殿もむごいお人じゃ。これほどの難題にわたくしどもを苦しめようとは……」
「さりとてこうなれば女子の意地じゃ。どうなりともして詠み出さいではのう」と、安芸もひたいを皺めながら言った。
縁さきで忽ちに笑う声がきこえた。
「はは、予をむごいと言うか。久安百首にも選まれたほどの人びとが、これほどのことを詠み煩ろうては後の世の聞こえもあろうぞ」
女たちは今ここへはいって来た人にむかって、その星のような眼を一度にあつめた。人はあるじの忠通であった。忠通は半ほども前にこの難題を女たちの前に提出して置いて、しばらく自分の居間へ立ち戻っていたが、もうよい頃と思って又出直して来ると、どの人の色紙にも短尺にも筆のあとは見えなかったので、彼はたまらないほどに興あるもののようにそり返って笑った。