Lettura giapponese

Classici giapponesi con furigana

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たまものまえ

玉藻の前

岡本 綺堂

Leggi 玉藻の前 (たまものまえ) di 岡本 綺堂 (おかもときどう) in giapponese con furigana. JLPT N2. Tocca una parola per il significato.

N2 · avanzato · kanji e kana moderni · 130.703 caratteri · 261 schermate

Aozora Bunko

彼は再び水のきわへ這い戻って、蒼ざめた顔を水に映した一刹那に、うしろからその腰のあたりを引っ掴んで不意にひき戻した者があった。

「これ、待て」

それは下部らしい小男であった。くずれた堤の上にはその主人らしい男が立っていた。もう争うほどの力もない千枝松は、子供につかまれた狗ころのように堤のきわまでずるずると曳き摺られて行った。

「お前はそこに何をしている」と、主人らしい男は彼に徐かに訊いた。男は三十七、八でもあろう。水青の清らかな狩衣に白い奴袴をはいて、立烏帽子をかぶって、見るから尊げな人柄であった。彼は鼻の下に薄い髭をたくわえていた。優しいながらもどこやらに犯し難い威をもった彼の眼のひかりに打たれて、千枝松は土に手をついた。

「見れば顔色もようない」と、男は重ねて言った。「おまえは怪異に憑かれて命をうしなうという相が見ゆる。あぶないことじゃ」

「殿のおたずねじゃ。つつまず言え。おのれ入水の覚悟であろうが……」と、下部は叱るように言った。

「わしは播磨守泰親じゃ。何者の子か知らぬが、おまえの命を救うてやりたい。死ぬる子細をつぶさに申せ」

泰親の名を聴いて、千枝松もおもわず頭をあげて、自分の前に立っているその人の顔を恐るおそる仰いで視た。