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いやなかんじ

いやな感じ

高見 順

「文学界」1960(昭和35)年1月~1963(昭和38)年5月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 292,113 字 · 587 页

青空文庫

それほど俺自身にとっては、大変なことだったのだが、話としては、ひと口に死にぞこないと簡単に言ってのけられるほど、あっけない話なんで、だから話にそうもったいをつけないで、てっとり早く二回目の死にぞこないの話をしたほうがいい。朝鮮行きの前に、ちょっとまだ話がないでもないが、早速、俺を汽車に乗せよう。

俺はポッポ(汽車)で下関へ行った。青切符(二等)を買える金は持っていたけど(そのころ、汽車は一等、二等、三等とあったのだ)、乗りつけない二等に乗って目立ってはまずいから、赤切符(三等)で行った。

東京を去ることは俺には死をめざして生から去って行くことだった。一気に死地へ乗りこみたいのに、下関までは今とちがってずいぶんと時間がかかった。時間をかけて、生からゆっくりと立ちのいて行くのは、なま身の人間としてやっぱり、いやな感じだった。俺は自分を卑怯者だと思いたくなかったが、ひとりで死につくことの苦痛は自分でそれを認めないわけにいかなかった。シモクテン(三等車)の中で、俺はひとりで酒をあおった。そうして俺は苦痛をまぎらすために、ヒロイズムの悲壮感を自分のうちにかき立てていた。