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いやなかんじ

いやな感じ

高見 順

「文学界」1960(昭和35)年1月~1963(昭和38)年5月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 292,113 字 · 587 页

青空文庫

の夜をすごすことを避けたい気持だったのだ。

今夜あたりが一番いけないと俺は思った。いけないと言うのは――波子と俺は、夫婦気どりの旅をずっとつづけてきたが、二人の間は綺麗だった。自分でも不思議なくらい、俺は波子に全然手を出さなかった。出す気になれなかったというのとはちがって、ジダマ(素人娘)には手を出すまいというところがあった。波子のほうも、その夫婦偽装は、上京したい一念からで、色恋みたいなものではないと俺には見られたからだ。手を出さないことが、俺を窮地から救ってくれた波子へのせめてもの恩返しだと俺は考えたのだ。――

若いおいらんが俺のあいかたとして現われた。胴長で、やけに顔が大きな女だった。大きな顔を真白にぬたくって、そのためいやが上に顔が大きく見えた。それが猫撫で声で、

「ねえさんにかわって、あたしをひいきにしてちょうだい」

と言う。俺のほうではこの女の顔に見覚えがないが、女は俺が若紫のお馴染さんだったことを知っている。俺の傍にすり寄って、

「うれしいわ」

「なにがうれしい」

「だって兄さんを、あたし、前から好きだったの。でも、ねえさんがいたんで逢えなかったの」