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いやなかんじ

いやな感じ

高見 順

「文学界」1960(昭和35)年1月~1963(昭和38)年5月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 292,113 字 · 587 页

青空文庫

うかつな自分に舌打ちをして、俺は営門を出て、練兵場へ向けて、てくてくと遠回りの道を歩いて行った。腹が減ったので、パン屋を見かけた俺は中途でパンを買った。

炎天を歩いているせいか、俺の頭のなかはカッカと燃えていた。燃えている頭のなかは、しかし、からっぽの感じだった。俺のうかつは、このせいなのかもしれない。アナーキストは無思想だとボルの奴らから軽蔑的に言われたものだが、その無思想を今はっきりと俺は自分のうちに感じた。

練兵場に来て、俺は木かげに腰をおろして、汗をぬぐった。射撃練習の音が聞えてくる。北槻中尉はどこにいるか分らない。

パンの紙袋がごそごそと邪魔だった。ここで食っちまおうか。ボサボサしたジャムパンを俺は食いはじめた。そこへ一匹の黒犬が、どこからともなく現われて、パンを食っている俺を、遠くからじっとみつめた。

「おめえも腹が減ってるのか。モサコケ(空腹)か」

おいらんにはむごい扱いをした俺も、犬にはやさしかった。きたない痩せこけたのら犬である。俺に尻を向けて、いつでも逃げ出せる態勢で、首だけこっちに向けている。横目で俺を見ている。その恰好が滑稽で、いじらしく、