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いやなかんじ

いやな感じ

高見 順

「文学界」1960(昭和35)年1月~1963(昭和38)年5月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 292,113 字 · 587 页

青空文庫

そういう仮定から来たものではない。そんな前提を抜きにしたものだった。いきなり、俺は死人を自分に感じたのだ。もっと早く感じなければならないはずのそれを、今はっきりと感じた。そういう感じかたで、俺は俺が生きている実在感のようなものを失ったのだ。そしてその喪失は空虚感とは全くちがったものを俺の内部にみたしていた。むしろ充実感と言ったほうがいい。死人をみずからのうちに自覚することで、むしろ生きている。

俺は波子の手を、きゅっと握った。そうして自分が生きていることをたしかめようとしたのではない。むしろ逆で、そして俺は俺が生きている生ま身の人間であることを逆に知らされた。

生きているという実感は、なんとなく俺にはそぐわない、しっくり来ないものとして受け取れた。それは俺を妙に落ちつかない気分にさせた。突然、俺は波子の手を自分の口の近くに持って行ったのだが、そんな妙なことをしたのは、どうやら、その落ちつかない気分のせいだったようだ。指のつけ根にえくぼの浮んだ手を、俺は自分の唇でなく、鼻に持って行った。

「枝豆のにおいがする」

と俺は言った。波子は黙って、手をふりほどいた。