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いやなかんじ

いやな感じ

高見 順

「文学界」1960(昭和35)年1月~1963(昭和38)年5月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 292,113 字 · 587 页

青空文庫

「あんたはイヌ年じゃないね」

「ウマだい」

「イヌ年の女に惚れちゃ、いけないね」

「大きなお世話だ」

こいつは、やっぱり、気ちがいだ。俺はソッポを向いて、

「ウォー!」

とひと声高く吠えたとき、

「ちょいと、ちょいと」

羅漢が俺の側にやってきて、

「およしったら」

くさい臭いが俺の鼻をついた。汗と垢の悪臭だが、このくさい豚箱のなかでさえ、ひときわ際立ってくさい。胸が悪くなるくささだった。そのくさい頭を俺の耳もとに近づけて、

「憑きものをおとさなくちゃ……」

「俺には死神が憑いてんだ」

「それは、あの人……」

奥に眼をやった。奥のその「牢名主」はチリ紙のカンジンよりで、豆粒ほどのワラジを作っていた。これもあとで知ったのだが、この男は強盗にはいったさきで、コロシをやってしまったのだ。家人に騒ぎ立てられたので、つい、ニシを向かせて(殺して)しまったのだ。

「あの人とちがって、あんたは――運が強い」

「悪運か? おだてたって駄目だい」

「ちょいと、ちょいと」

羅漢は俺の顔の前に、自分の顔を持ってきて、

「あんたの眼は、猫の眼みたいに光ってる」

「猫が憑いてるからだろう」

おちゃらかしたが、相手は深刻な顔で、