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いやなかんじ
いやな感じ
高見 順
「文学界」1960(昭和35)年1月~1963(昭和38)年5月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 292,113 字 · 587 页
第三章
その一 北の果て
四郎さんもあの仲間にはいったほうがハクイ(安全な)んじゃねえのか」
「いやなこった。丸さんは砂馬さんと大分親しいようだが、それでアナーキズムが守れるのかい」
「そんな口のきけるおめえか」
しとしとと陰気に雨が降っている。その音に俺たちは陰気に耳を傾けていた。ふと丸万がはにかんだ表情で、
「俺もそろそろ身を固めようかと思ってる」
「女の科白みてえじゃないか」
「俺もかかあを貰おうかと思ってよ……」
黒い歯茎を出して丸万は笑った。
第三章
その一 北の果て
根室の街は海に面した丘陵地にある。その海というのはオホーツク海である。ながいながいナガバコ(汽車)の旅をつづけて、俺と波子が終着駅の根室についたとき、街は深い雪に埋れていた。丘陵の上にあるハコネ(駅)から見おろすと、視界はことごとく雪と氷で蔽われていて、どこまでが陸で、どこからが海か、見当がつかない。ここの海はまるで真水の湖のように凍っていて、千島のほうまでずっと大氷原と化しているかのようだった。
広漠たる氷雪の世界に放り出されたおもいで俺は、えらいところへきちまったと、思わずつぶやいた。南国で育った波子には、北の果てのこの荒涼がひとしおきびしく心に迫ったはずだが、襟巻を頭からすっぽりかぶった波子は、重いトランクをかいがいしく両手に下げて、愚痴っぽいことは何も言わない