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いやなかんじ
いやな感じ
高見 順
「文学界」1960(昭和35)年1月~1963(昭和38)年5月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 292,113 字 · 587 页
「なにを言うんだ。慷堂先生は二・二六事件と直接になんの関係もないんだ」
「なくても、そんなこと問題にならん。たとえあの事件には関係がなくても、青年将校の指導者だった以上……」
「死刑は当然だと言うのか。馬鹿なことを言うな」
憤然と席を立ったとき、
「大変だ」
廊下をバタバタと足音を立てて子分が駈けこんできて、
「先生。大変な漬け物です。人間の漬け物だ」
「なんだって?」
砂馬は大きな「三月」(鼻)をふくらませて、
「なんのコンピラ(漬け物)だ。はっきり言え」
「人間の塩漬けなんで……」
「樽の中身は人間だったのか」
「そうなんで。人間を塩漬けにして送ってきやがった」
「その人間は――誰だ」
「それが、先生、あの、朝倉の兄貴らしいんで……」
「朝倉……?」
俺も、朝倉? と聞き耳を立てた。
「よし、見てみよう」
と葉巻をくわえたままソファから立った砂馬に、
「矢萩大蔵の子分に朝倉という奴がいたが」
その男じゃなかろうか。俺が聞くと、
「あれは矢萩にあいそをつかして、俺んとこへ来たんだが……」
砂馬は複雑な表情をひめた声だった。
「あの朝倉が塩漬け……?」
と俺も砂馬のあとからついて行った。