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いやなかんじ
いやな感じ
高見 順
「文学界」1960(昭和35)年1月~1963(昭和38)年5月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 292,113 字 · 587 页
「それがどうでしょう。今では孤島上海……日本軍が逆にあの上海を包囲してしまった」
「それどころか、南京までたちまち落してしまった」
「黄浦江にあのとき、日本の軍艦がいたんで、よかった。あれで助かったようなもんですね」
「あたしの女房や子供があのとき内地へ避難できたのも、軍艦がいたおかげだ」
これは雑貨商の声だった。
「支那には海軍がないからな」
「まだ、内陸では戦争をやっていると言うのに、呑気にこうやって、あたしたちが船から戦蹟見物ができるのも、制海権を日本が握っているからですな」
「事変の勃発当時、黄浦江に日本の軍艦がずいぶんいたようですね」
「たしか二十七隻……」
「どうしてそんなにたくさん……?」
咎めるように言ったのは、赤褐色のソフト帽をかぶったモダン・ボーイ風の男だった。
「あぶないと思って、あらかじめ、待機してたんでしょうな」
雑貨商が答えると、
「それにしたって、多すぎる。どうして、そんなにたくさん……?」
モダン・ボーイめいた男は抗議の口調で、
「それじゃ、まるで日本のほうから、いくさをしかけたみたいだ」
「そんなことはない」
と否定する雑貨商に、
「いや、支那事変は日本が支那を侵略するためにはじめた戦争だという説もありますよ」