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いやなかんじ
いやな感じ
高見 順
「文学界」1960(昭和35)年1月~1963(昭和38)年5月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 292,113 字 · 587 页
避難した人々も今は戻ってきて、すでに日常生活が営まれている。
「その道を転彎(まがれ)」
ロクは日華両国語をチャンポンに使って、車夫を指図した。公用と書いた白い腕章をつけた日本兵が歩いている。
河向うとちがって喧騒がひどくないのは、日本人の居留地だからか。だが、中国人の姿も見られた。白人も歩いていたが、あれはナチに追われてヨーロッパから逃げて来たユダヤ人なのだとロクは言った。
やがて車は細い路地のなかにはいって行った。どんづまりのその路地の中ほどで、
「到拉、好拉(着いた、よろしい)」
とロクは言った。急には車がとめられないようで、車夫は亀みたいにのばした皺くちゃの細首を、がっくりと前に垂らして、ふた足三あし、車を進ませた。
「下去(降りるぞ)」
とロクがどなった。真冬だというのに、老車夫の顔には汗がしたたっていた。
そこには変に細長い建物が子供の積木のように並んでいた。各階がそれぞれ独立した貸室になっている。と、俺はあとで知ったのだが――言いかえると、各階にひと部屋しかない小さな公寓なのだ。
そのひとつの建物の、狭い階段を、ロクが先に立って昇って行った。