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いやなかんじ

いやな感じ

高見 順

「文学界」1960(昭和35)年1月~1963(昭和38)年5月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 292,113 字 · 587 页

青空文庫

それは心の奥の深いところに秘められていた。それが今、心の表面に出てきた。俺の胸が弾んでいるのはそのためだ。まず手初めに矢萩を殺し、次に砂馬を――左様、俺とは筋のちがう矢萩なんかどうでもよかったのだ。砂馬を殺すのが、俺が上海へ来た目的だったのではないか。胸のわくわくがそれを俺に告げる。

テロリストの俺が今まで果しえなかったことをここでついにやれるのだ。今こそ俺はテロリストの本領を発揮できるのだ。砂馬を殺すことで俺は初めてテロリストたりうる。胸をおどらせずにいられようか。

砂馬を俺たちテロリストの裏切り者と見たことで、俺はかならずしも砂馬を殺そうと考えたのではない。砂馬は裏切り者にはちがいない。しかしそのことが俺のこの殺意の、決定的な原因ではない。俺は何よりもまず俺自身が断乎テロリストでありたいと思ったのだ。

だから――砂馬を殺さなかったら、俺が砂馬にやられるというような気持で、砂馬を殺そうとしたのではない。矢萩を俺が殺したことでおそらく砂馬は俺に対する誤解をとくだろうから、俺の心配は無用とも言える。だが、そうしたことは俺の心に来なかった。砂馬を殺そう、殺すのだと俺は一途に思いつめていた。