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ごべんのつばき
五瓣の椿
山本 周五郎
「講談倶楽部」1959(昭和34)年1月~9月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 149,721 字 · 296 页
「ここまできてですか」と六が顔をあげた。
「約束のものはあげます」と云っておりうは紙包みを二つそこへ置いた、「これでそちらのお師匠さんの身の立つようにして下さい、一つは六さんの分よ」
「やい、聞いたか」まだ腕を捻じあげたままで、六助が云った、「お嬢さんがああ仰しゃるから、ここのところは勘弁してやらあ、――それ、仲さんに改めてよく詫びを云え」
六助は手を放して立ちあがった。
蝶太夫は俯伏したまま、激しく喘ぎながら伸びてい、仲次郎はおりうに無礼をあやまり、六助は紙包みを受取った。やい、仲さんに詫びねえのか、と六助がどなり、おりうがなだめた。仲次郎は金は貰えないと拒んだが、六助にせきたてられ、まもなく二人は出ていった。
「もう大丈夫よ、お師匠さん」とおりうがやわらかな声で云った、「もう二人とも来やあしないわ、ねえ、起きて来て飲み直しにしましょう」
蝶太夫は呻き声をあげた。
おりうは彼をみつめた。蝶太夫は両手で頭を抱え、顔を横に向けながら、あのならず者め、と云ってまた呻いた。
「金にさえなればどっちへでも転ぶやつだ、あのちくしょう」と彼は云った、「あんな野郎を頼みにしたのが悪かった、おれもどうかしてたんだな」