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ごべんのつばき

五瓣の椿

山本 周五郎

「講談倶楽部」1959(昭和34)年1月~9月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 149,721 字 · 296 页

青空文庫

五

「人殺し兇状の疑いだ」と千之助は云った、「この半月ばかりのあいだに、料理茶屋で人殺しが二件あった」

「人殺し」と清一が笑った、「冗談じゃあねえ、それはまたとんだ」

「清さん」と娘がやわらかに遮った、「御用のことですから、温和しく聞いていて下さいな」

男は不服そうに黙った。

倫という娘は、眼の隅で女中を見た。千之助は仔細を話してい、おはなは気まずそうに、隅のほうで身をちぢめていた。

五

千之助とおはなが去ったあと、清一は一人で面白がって、いまの出来事を肴にしながら飲みだした。

「お倫さんに人殺し兇状の疑いをかけるなんて、あの与力の眼はよっぽどどうかしている、これが男ころしとでも云うのなら見当は合うがね」

「清さんって屹としたところがあるのね」とお倫は酌をしてやりながら云った、「町方与力っていえばたいへんな威勢があるんでしょ、それを清さんは平気な顔で、ひらき直っていざを云うんですもの、あたしどうなるかと思ってはらはらしちゃったわ」

「与力だって町奉行だって」と清一は膝へ手を突っ張って云った、「悪い事をしない限り恐れるこたあありゃあしないさ、蔵前の店へいってごらん、ああいう侍がよく金を借りに来て、番頭なんかにお世辞を使ってるから」