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ごべんのつばき

五瓣の椿

山本 周五郎

「講談倶楽部」1959(昭和34)年1月~9月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 149,721 字 · 296 页

青空文庫

二

二

襖の向うで声がした。およねは云いかけた言葉を切って「はい」と返辞をした。襖をあけて、若い女中が顔を見せ、廊下に坐ったままで云った。

「こちらさまは丸梅の御主人でいらっしゃいましょうか」

「ええそうよ」およねは源次郎が制止するより早く答えた、「それがどうかしたの」

「いまあの、たずねてみえた方があるんですけれど」

「お客さまなの」

「それが、あの」女中はちょっと口ごもった、「小さなお子を二人伴れた女の方で、お名前はつるさんとか仰しゃいましたが、ちょっとでいいから御主人に会いたいといって」

「だめだめ、いけないよ」源次郎はいそいで手を振った、「そんなことを取り次ぐやつがあるものか、いないって云うんだいないって」

「でもあとを跟けて来て、おはいりになるところを見たと仰しゃるもんですから」

「待たしておいてちょうだい」およねが云った、「ええ、いまいきますからってね」

女中は襖を閉めて去った。

「冗談じゃない、どうするつもりだ」と源次郎は狼狽した、「私はそんな者には会やあしないよ」

「会うのはあたしが会います」とおよねは云った、「小さな子を二人も伴れ、あなたのあとを跟けて来たとすれば、きっとあなたのために泣かされている人でしょ、――おつるさんですって、いったいどういう人ですの」