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ごべんのつばき
五瓣の椿
山本 周五郎
「講談倶楽部」1959(昭和34)年1月~9月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 149,721 字 · 296 页
第二話
一
きれいな、眼のさめるような火の粉が飛散し、遠くで半鐘が鳴りだした。おしのは天神橋のほうへ、静かにあゆみ去っていった。
第二話
一
正月二十八日の午後、「むさし屋」の手代の徳次郎は一通の手紙を受取った。――届けに来たのは町飛脚で、手紙には差出し人の名がなかった。徳次郎は封をひらいたが、すぐけげんそうに眉をしかめた。それから、読みかけた手紙をふところへ入れると、さも用ありげに、金網を張った雪洞に灯を入れて持ち、奥蔵の中へはいっていった。――彼はまもなく出て来たが、その顔は怯えたように硬ばって、細くなり、眼は焦点をなくしていた。「まさか」と彼は唇を動かさずに呟いた、「まさかそんなことが」
明くる二十九日、徳次郎は小さな包みを持って店をでかけた。番頭の嘉助にはまえの日に、田舎から母が病気だと知らせて来たので、いちにち暇をもらいたいと断わってあった。徳次郎の実家は荏原在にあり、十数代も続くかなりな地主で、苗字帯刀を許されていた。彼は二男であるし、自分から望んで「むさし屋」へ奉公に出たのであるが、近く暖簾を分けてもらって店を出すときには、実家から補助がある、ということをみんなが知っていた。