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ごべんのつばき
五瓣の椿
山本 周五郎
「講談倶楽部」1959(昭和34)年1月~9月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 149,721 字 · 296 页
と云った。
「お伴れさまは」と女中が訊いた、「お伴れさまをお呼びしましょうか」
「だめ、酔いつぶれて寝ちゃってるの」とおりうはかぶりを振った、「迷惑でしょうけれど起きるまでそっとしといて下さいな」
「迷惑なんてとんでもございません」女中はいそいで云った、「――でもあなた、お一人で大丈夫でございますか」
「駕籠をひろってゆくから大丈夫」おりうは紙に包んだものを女中に与えた、「これはあなたに、――お世話さまでした」
そしてその座敷から出ていった。
夜の十時すぎてから、蝶太夫の死んでいることがみつけられた。彼は平打の銀の釵で心臓を刺されたもので、釵は刺したままになってい、その枕許に一片の椿の花びらが落ちていた。――その座敷に椿などは活けてないので、よそから持って来たものであろう。その真紅の一片の花びらは、まるでなにかを暗示するように、ぶきみな印象を人々に与えた。
「あの人がやったのね」と係の女中が怯えたように云った、「それで吐いたりしたんだわ、ああいやだ」
「心中のしそこないじゃないかしら」とべつの女中が云った、「あの人おとなしそうだったもの、いまごろ大川にでもとび込んでるかもしれないわ」