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ごべんのつばき

五瓣の椿

山本 周五郎

「講談倶楽部」1959(昭和34)年1月~9月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 149,721 字 · 296 页

青空文庫

「病気なんかなかった」彼は紙を受取って云った、「どこにも悪いところなんかなかったが、それっきりになるのが惜しいから、ようすをみようと云った」

四、五日かよって来てくれと云うと、薬礼を置いて帰った。あとであけてみたら金二両、彼は吃驚した。名はみの、年は十八と聞いただけで、住所も家の商売も云わなかった。よほど大家の娘だろう、もう来ないのではないかと思ったが、中一日おいて、木挽町の清川という料理茶屋から迎えが来た。先日のお礼に一と口さしあげたいからという。いってみるとおみので、三の膳の付いた贅沢な料理で酒を馳走された。おみのは小間使も女中も遠ざけ、自分で彼に給仕しながら、嬌かしく彼の気をそそった。ははあ、おれに気があるな、と彼は思い、だが相手は大家の娘らしいので、そのときはさりげなく受けながした。

「それから今日まで、半年のあいだに十二、三遍も逢ったろうか」と彼は云った、「逢うたびにだんだん色っぽくなり、いまにもおちそうなようすをみせるんだが、際どいところでするっと逃げてしまう、するっと――」

得石は手で一種の動作をしてみせた。

五

住居や家のしょうばいのことは決して話さない。