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ごべんのつばき

五瓣の椿

山本 周五郎

「講談倶楽部」1959(昭和34)年1月~9月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 149,721 字 · 296 页

青空文庫

色のやや浅黒いほそおもての顔に、憂いを含んだような切れ長の細い眼と、やはり薄くて小さな唇許が、娘のおしのでさえ惚れぼれするほどの、際立った魅力をもっていた。

「途中で降られたんでしょ」おそのは火鉢へかぶさるように坐りながら、うるんだ眼つきでじっと娘をみつめた、「寒いからなにか温かいものでも取りましょう、あんたきれいになるばかりだわね」

「おっ母さんぐあいが悪いって」とおしのが云った、「誰かお客があるようだけれど、寝ていたんじゃないんですか」

「お客なんかいやしなくってよ、寝ていたんだけれど頭がくしゃくしゃするもんだから、いま床の上でちょっといたずらをしていたところなの、お午になにを御馳走しようか」

「おっ母さん、おたみから話を聞いたでしょう」とおしのは云った、「お父つぁんの病気、こんどはひどく重いのよ、これまでにないほどたくさん血を吐いたし」

「やめてやめて」おそのはきれいな長い指の手を振りながらいたずらっ子のように眉をしかめた、「そんな話を聞くと胸がむかむかするじゃないの、横山さんていう医者が付いてるんだもの、病人のことは医者に任せておけばいいでしょ」

「その横山先生が仰しゃるのよ」