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ごべんのつばき

五瓣の椿

山本 周五郎

「講談倶楽部」1959(昭和34)年1月~9月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 149,721 字 · 296 页

青空文庫

「たいへんな災難でしたのね」とおみのが云った、「いったいあの三人はどういう素姓の者なんですか」

「あの三人、――」得石は反射的に片ほうの眼を押えながら、訝しげに訊き返した、「私は乗った駕籠がぶっつかって」

おみのは微笑しながらかぶりを振った。

「嘘を仰しゃってもだめ」とおみのは云った、「あなたに会わせろって、さっきその三人がここへ来たんですもの」

得石の顔が恐怖のために硬ばった。

「ここへ」と彼は吃った、「三人がここへ来たって」

「先生の駕籠のあとから跟けて来たんですってよ」

「それで」と彼は声を詰まらせた、「その男たちはどうした」

「あっちで酒を飲んでいますわ」

「あげたのか」

「だってこの店の表まで駕籠を跟けて来たっていうんですもの」おみのはやわらかく微笑しながら、燗徳利を取った、「いいじゃありませんか、一つめしあがれ」

「しかしそいつらは」

「盃をお持ちになって、そんなにびくびくすることはないでしょ」

「びくびくするって、私がか」得石は坐り直して盃を持ったが、その手はひどく震えていた、「ばかな、あんな三下のやくざ者なんぞ、うん、ちょうどいい、女中をちょっと呼んでくれないか」