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ごべんのつばき

五瓣の椿

山本 周五郎

「講談倶楽部」1959(昭和34)年1月~9月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 149,721 字 · 296 页

青空文庫

三

おしのはがまん強く、子供をなだめるような調子で云った、「こんどはよっぽど大事にしなければいけない、店に置いてはだめだから、寮のほうへ移してゆっくり養生をさせるようにって」

「いやよ、いいえだめよ、そんなこと」

三

「おっ母さん」とおしのが云った。

「そんなことだめよ」おそのは脇のほうを向き、すぐにまた向き直って、娘の眼をみつめながら云った、「あんただってわかってるでしょ、そんなこと云ったって当人がきやあしないわ、たとえ医者に死ぬとおどかされても、あの人は店をはなれるような人じゃないことよ、そうでしょ」

おしのは母の顔を見まもった。

「そらね、あんたの眼を見ればわかるわ」とおそのは眼を細めて微笑した、「あんたあの人が承知しないものだから、あたしにすすめさせるつもりで呼びに来たんでしょ」

「お父つぁんは」とおしのが云った、「おっ母さんの云うことならきっときいてよ」

「そんなことをあたしが嬉しがるとでも思ってるの」

「お願いよ、おっ母さん」おしのは母の手を握りながら云った、「こんどは本当に危なそうなの、こんどだけでいいからうちへ来て、寮で養生するように云ってちょうだい、ねえ、一生のお願いよ、おっ母さん」