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ごべんのつばき

五瓣の椿

山本 周五郎

「講談倶楽部」1959(昭和34)年1月~9月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 149,721 字 · 296 页

青空文庫

得石は知らなかった。しかしおみのに云われてみると、そういう法度があったようにも思えた。

「そうかもしれないが」と彼は不決断に云った、「それとこれとは話が違うから」

「あの三人は先生のことをよく知っていますよ、海石のことも、豊島屋のことも、日済し貸しのことも」とおみのは云った。「――三人がお繩になれば、きっとなにもかも申上げてしまうでしょ、それでもいいかしら」

得石は進退に窮した。訴人するといきまいた直後、こんどはそれを取り消さなければならない。しかもおみのに対してだから、どうにも恰好がつかなかった。

「少し飲ませて下さい」彼は手酌で二つばかり飲んだ、「酔いがさめてしまったらしい、――貴女もどうですか」

「女中を呼ぶんでしょう」

「面倒だ、いや、面倒くさくなりました」と彼はまた一つ飲んだ、「貴女とのせっかくの晩に、そんな面倒なことはよしましょう、もう考えるだけでもうんざりですよ」

「ではあの人たちを帰して来ます」

おみのが立つのを見て、得石は驚いたように腰を浮かせた。

「どうするんです、おみのさん」

「あの人たちお金をよこせといって動かないんです」とおみのは云った、「だからお金を遣って帰して来ますわ」