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ごべんのつばき
五瓣の椿
山本 周五郎
「講談倶楽部」1959(昭和34)年1月~9月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 149,721 字 · 296 页
不安と緊張から解放されて、身も心もくつろいだというようすだった。
おみのは隙なしに酌をし、それをぐいぐい飲みながら、いい気持そうに話し続けた。女のからだの機能から始めたが、詳しいことはおみのにはよくわからないらしい。それとも聞くふりをして聞いていないのか、かたちだけ合槌を打ちながら、もっぱら酒の燗と酌をすることにかかっていた。
「そのかみさんは首を吊って死んだ」
「まあ可哀そうに」
「そう思うでしょう、当人以外はみんな可哀そうにと思うだろうが、本当のところそのかみさんは満足して死んだんですよ」
「どうしてわかるの」
「その女は子を欲しがっていた」と彼は独りで頷いた、「亭主と七年もいっしょにいて、どうしても子ができない、年は二十六だったと思うが、子ができないうえにあのほうも不満だった、わかりますか」
「続けてちょうだい」
「私は診察してすぐにそれがわかった、女は自分ではなにも知らなかった、ただ子供が欲しいのに亭主が頼りない、というだけだったんです」そこでまた彼は、女のからだの微妙さについて繰返した、「――私が治療してやると、その女は吃驚しました、自分がどうなったかもわからなかった、こんなことは生れて初めてだと云って、それから約二た月間、躯に障りのある日を除いて、二日おきにきちんとかよって来た」