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ごべんのつばき
五瓣の椿
山本 周五郎
「講談倶楽部」1959(昭和34)年1月~9月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 149,721 字 · 296 页
一人は芸人、一人は町医者、どちらも評判のよくない人間だった、と彼は思った。初めに殺された岸沢蝶太夫には、恨みを持つ人間がいた。彼の兄弟子で仲次郎といい、彼のために腕を折られた。岸沢のたて三味線を横取りするのが目的でやくざ者を使い、仲次郎の利き腕を折ったのだという。そこでいちおう仲次郎をしらべたところ、「おりう」という女の名が出た。住居もなにもわからない、年は十八、九で縹緻がよく、大店の娘のような感じだった。むささびの六助というならず者も伴れて来て、腕を折ったのは蝶太夫に頼まれたからだと云い、深川の門前仲町にある「岡田」という料理茶屋を教えられた。そこで仲次郎は蝶太夫に会い、事実を慥かめてから、相手の腕を折ってやろうと思ったが、おりうという娘に止められて帰った。そのときおりうは、仲次郎に金子五十両を呉れ、なにかしょうばいに取り付くように、と云ったそうである。
「ここがわからない」と千之助は呟いた、「そのあとで蝶太夫をあやめたんだが、どうしてそのまえに仲次郎を呼んだのか、むささびの六とどんな関係があるのか、なんのために五十両という大枚な金を仲次郎に遣ったのか、そのところがまるでわからない」