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ごべんのつばき
五瓣の椿
山本 周五郎
「講談倶楽部」1959(昭和34)年1月~9月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 149,721 字 · 296 页
しかも、たび重なるにつれてその態度は嬌かしさを増し、十一月になって逢ったときは、夫婦になってくれるなら、と云いだした。
「今日まで本気かどうかためして来た、と云うんだ」清一は酒を呷った、「――浮気ならいやだけれど、ちゃんと夫婦になってくれるなら、……米八、おまさばばあもここのところを聞いてくれ、いいか、夫婦になってくれるのなら、千両箱を二つ持ってゆこう、って云うんだ、千両箱二つだぜ」
「なんですかそれっぱっち」と米八が云った、「仮にも香屋の若旦那が、二千両ばかりのはした金に声を高くすることはないでしょう」
「あたりきよ、金なんぞじゃあねえ、こころ意気だ、二千両は鼻紙代にもならねえが、それを持って来ようというこころ意気がうれしいじゃねえか、そうだろうばばあ」
「それはようござんすけれど」とおまさが訝しそうに云った、「いったいそれはどういうところのお嬢さんなんですか」
「それがてんでわからなかった」と云って、彼は左手の盃を口へ持ってゆきながら、右手をいそいで振った、「いや、いまはわかっている、一昨日へんな間違いがあって、そのとき実家のことも住居のこともわかった、歴とした大商人の娘で、本郷のほうに小間使と二人別居しているんだ」